〈一日モデルコース〉禁教時代のバスチャンから現代の遠藤周作まで。信仰と希望の歴史探訪〈後編〉
2018年に世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」。
2023年には登録から5周年を迎え、国内のみならず海外の方もたくさん長崎へ訪れるようになりました。
世界文化遺産の中から、前回に引き続き、今回も長崎市外海(そとめ)地区にある出津(しつ)集落・大野集落をめぐる一日モデルコースをご紹介します。
午前の行程のあと、道の駅 夕陽が丘そとめのレストラン 「ラ・メール」で食事をとった私たち。
午後は、ド・ロ神父のお墓へ。
ド・ロ神父のお墓のある野道共同墓地は、ラ・メールから車で5分の場所にあります。
掲載日:2024年03月21日
ライター:ことぐらし
道すがらに際立つ白いお墓〈ド・ロ神父の墓〉
野道共同墓地に葬られたド・ロ神父。
28歳で日本にやってきて、出津に任じられたあと一度も自国に戻らず、74歳で亡くなるまで外海にその生涯を費やし、教育や慈善活動に邁進されました。
当初共同墓地の高台にド・ロ神父の眠るお墓があったそうですが(写真1枚目十字架の場所)、現在は巡礼の方の便宜を考えて下におろしたのだそう。
今回私たちはバスの車窓から見るだけだったので、次回は訪れてみたいと思います。
ここだけ時が止まったかのような〈バスチャン屋敷跡〉
車を停めて、木漏れ日の落ちる道を少し歩き、沢を超えたら現れる「バスチャン屋敷跡」。
ここだけとても神秘的な空気が流れています。
日本人伝道師のバスチャンが、迫害を避けて隠れ住んだ場所のひとつで、現在の建物は1993年に建て替えられた二代目のもの。
ここで過ごしたバスチャンは、夕飯をつくる煙で役人に見つかり捕まってしまいます。
捕縛の際は、道で妻と目配せだけをして別れたのだとか。
林の中、上を見上げると、ぽっかりと空が見えました。
ここだけにさす光は御加護、艶やかに生える苔は信仰で、苔につく露は涙なのかもしれないと連想してしまいました。
PickUp
基本情報
時間の決まりは特にありませんが、鬱蒼とした林の中なので明るい時間帯また晴れた日がおすすめです。
足元が滑りやすいので、気をつけて。
〈大平作業場跡〉地域全体が歩くミュージアムに
昨年10月にオープニングイベントを終えた施設・大平作業場跡へやってきました。
ド・ロ神父の時代、家畜小屋や貯蔵小屋として使われていた場所です。
周囲にはド・ロ神父が開拓した畑や井戸が。
当時マカロニやパンを作るための小麦などを栽培していた畑で、今ではお茶やさつまいもなどが育てられています。
百年以上風雨にさらされ崩れそうになっていた作業場跡を補修する工事が、まもなく(令和6年3月末)完了予定。
ド・ロ神父が建てた当時の石積みとの違いがはっきりわかるように、修復部分にはガラスを積んでいます。
二階部分は木造になっており、将来的にこの建物でパン焼き体験なども行われるのだそう。
近くにはキャンプサイトや山小屋もあり、山小屋の二階は大勢が宿泊できるスペースに。
今後、出津バス停前のミュージアム・エントランスで受付をし、そこを起点にフィールドミュージアムとして地域全体を周遊してもらう予定なのだそう。
すべての施設が完成するのは2026年夏予定。今からとても楽しみです。
PickUp
基本情報
現在も施設は工事が続けられているため、現状の見学は外から建物をのぞく程度可能。
ガイド案内などは今後整備していく予定。
※今回はツアーで伺ったため特別に中に入らせていただきました。
現代へとつながる信仰〈遠藤周作文学館〉
潜伏キリシタンとしての迫害を避け暮らした時代、ド・ロ神父の下で貧しさの中、懸命に営みを紡いだ時代、そして現代へ。
クリスチャンの足跡を辿る歴史の旅がだんだんと終わりに近づいてきました。
訪れたのは、遠藤周作文学館。
言わずと知れたカトリック信者であり小説家でもある人物で、キリシタンにまつわる悲哀を知るにつれ、縁もゆかりもなかった長崎に愛着が深まっていったのだそう。
館内の展示からは、クリスチャンとして育てられた遠藤周作自身の半生や自我について、生涯をかけ沈思黙考してきた姿をありありと知ることができます。
禁教やド・ロ神父の時代から、さらに視点と軸を広げ、ぐっと自分ごととして感じられる文学館の不思議な雰囲気。
時を忘れてじっくり読み入ってしまいました。
隣にある「思索空間アンシャンテ」もぜひ訪ねてみて。
ゆっくり夕日を見ながら、文字通り思索にふけることのできる場所です。
PickUp
基本情報
開館時間:9時から17時(最終受付16時半)
観覧料:一般360円(団体・小人料金あり)
〈道の駅 夕陽が丘そとめ〉暮れる夕日にあなたは何を思う
一日みっちりと外海を観光し、心も体もここちよい疲労感に。
最後に文学館のすぐ上にある道の駅で心洗われる夕日を見て、旅の締めくくり。
希望にあふれた朝日ではなく、物悲しい夕日が力強く輝き沈んでいくこの土地で、あなたは何を思いますか。
歴史の針が頭の中でぐるぐる回り、「さあ、きみはどう生きるのか」とどこからともなく声が降ってくるかのよう。
訪れる人それぞれの感性で、その人だけの答えをこの土地で見つけられるのではないかと思います。
ぜひ現地でひとつひとつ見て周り、感じてみてください。
(道の駅 夕陽が丘そとめの物産館では、地場のお土産や野菜、お惣菜など揃うので、そちらもチェックしてみてくださいね)
PickUp
〈ガイドについて〉さらに理解を深めたい方は
今回外海にまつわる話をいろいろと教えてくださったのは、外海観光ガイド協会の松川先生。
先生自身もかくれキリシタンの家に生まれ、オラショなどキリシタンの信仰が身近な環境で育ちました。
かくれキリシタンに関する本も出版されていて、外海のキリシタンがどう逃げていったのか、五島などにわたり現地調査もされたのだとか。
ご自身の半生や経験と、入念な調査・研究から生まれるお話はどれも聞き応えあり。
人数や回りたい場所、時間など予定に応じてアレンジしてくださるので、関心ある方は、090-2713-5259(外海観光ガイド協会・松川先生)までご相談を。
ちょいとおまけの情報〈外海サンセットクルージング〉
最後に、おまけ情報。こんな外海の良さもあるんだよって言わせてください。
それがこの外海サンセットクルージング。
写真を見ればお分かりの壮大な絶景が見られるんです。
大角力(おおずもう)小角力(こずもう)に沈む夕日をこんなに近くから見ることができるなんて。
こちらのイベントは、数年に一度開催で昨年で4回目とのこと。
不定期開催で、かなりクローズドに募集される(地元の支所でチラシが掲示される)ため、大きな声で「おすすめだよー!」って言えないのが玉に瑕。
それでも当日は県外ナンバーも多く、どこで情報ゲットしたんだろうと不思議に思いながら、そりゃこんなすばらしい体験、意地でも参加したくなるよね、とも思った私でした。
今後また情報が入れば、Instagramなどで拡散します!以上、外海のおまけ情報でした!
今回訪れた場所
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この記事を書いた人
#ナガサキタビブ 部員(公式ライター)
メジャーどころからニッチな穴場までご紹介します!